平日、地下鉄ホームにて
少し前の事です。
外出先から会社に戻るため、地下鉄のホームで電車待ちをしていた時に、
突然、男の人の大声が聞こえてきました。
「わしはなぁ、病気になってしもたんや。でも負けへん。今50やけど絶対に100まで生きたる」
突然響き渡ったその大声に、電車待ちをしていた人々は、ある人はスマホから顔をあげて、
ある人は文庫本から顔をあげて、声の聞こえる方に顔を向けています。
当然私も、「どんな人だろう」と見てみましたが、離れたところにいたらしく、
声の主はわかりませんでした。
すると、もう一度、
「わしはなぁ、病気になってしもたんや。でも負けへん。今50やけど絶対に100まで生きたる!」
と、先程と同様の大声が。
ホームにいた人々も、そして私も、なんとなくしんみりした気持ちになって、
皆顔をあげて、遠くをみつめるような雰囲気になってきました。
「そうかぁ。可哀そうになぁ。是非とも病気に打ち勝ってほしいなぁ」という、
見知らぬ者同士での連帯感的な空気に・・・
そこに、また、三度目の大声。
「わしはなぁ・・・」と。
そして、更に四度目の
「わしはなぁ・・・」
そして、五度目・・・
「わしはなぁ・・・」
・・・その、病気になってしまった方には大変申し訳ないのですが、
何となく同情してしんみりしていた人たちも、
何というか、本当に言葉は悪いのですが、飽きてきた、というか。
皆、通常の、スマホやら、文庫本やらに戻りつつあります。
私も、何となく気は引けるものの、再度文庫本に目を落とした、その時。
その大声の男性も、その場の空気を察したのか、第二弾を発射してきました。
「今年もジャイアンツが優勝や!タイガースは今年もあかん!」
・・・うーん。第二弾はささらんなぁ・・・
皆、思いは同じようで、今度は、ほとんどの人が興味を示しません。
そんな空気に、その男性が気付いたのかどうかはわかりませんが
「今年もジャイアンツが・・・」
と、畳み掛けてきます。
更に、もう一度
「今年もジャイアンツが・・・」
更に、もう一度
「今年もジャイアンツが・・・」
・・・もはや、誰も顔をあげません。
何なら、もう、聞こえないふり的な。
最初は、本当に、その場にいた人たちは、
私も含めて「病気が治ればいいな」と感じていたはずです。
誰とも、そんな会話はしませんでしたが、確かにそうでした。
でも、もはや過去の出来事です。
・・・やがて、電車が到着し、皆、何事もなかったかのように電車に乗り込みました。