推し活歴、50年
60代半ばの母には、
学生時代から約半世紀にわたりファンを続けてきた、ある歌手がいます。
私は、物心ついた頃からなんとなく、
「母はこの世の誰よりも、その歌手のことが好きなんやろうな…」と感じていました。
ファンクラブから色んな案内が送られてきては、
お洒落をしてコンサートやディナーショーに出掛けて行く母。
自宅では大きな額縁にポスターを入れて飾り、
年代もののレコードからCD・Blu-rayまで全てを揃え、
車内にはいつもその方の曲が流れていました。
ぬいぐるみにその歌手の名前をつけて呼び、
弟が産まれた際には、同じ名前にしようとしたことも。
私と弟が巣立ったあと、直近の約20年はより推し活が活発になったようで、
全国のコンサートについてまわり、
中止になってもとりあえず現地まで赴き思い出を作る日々。
ある時は、母に電話をしたら、父を引き連れて長野にいました。
またある時は、ファンの縁?でエジプトに行ってきた! と、
象形文字のイラストが描かれたTシャツと小さな瓶を渡されたことも。
飽きっぽいタイプの私には、
その好きの状態が高止まりで続く感覚があまり理解できず、
また、そののめり込み具合に違和感を覚える一方で、
かなりえげつない嫁姑問題に疲弊したり、
何度も父と離婚すると言い出したり、
神戸の山の手から奈良の山奥へ嫁いでの苦労をなんとか乗り越えて来られたのは、
この楽しみがあったからなのかなと、感謝の気持ちも抱いています。
原動力である、この歌手の存在がなければ、
おそらくですが、我が家の家族構成もかわっていたことと思います。
そんな中、先日その方がこの世から旅立たれました。
昔から互いに希薄な親子関係だったのですが、
今回はさすがに心配になり家族LINEへ連絡しました。
ただ、父からの連絡はあるものの、母親は未だに音信不通。
先日も、父親だけが自宅に来ましたが、母親は来ず。
父に母の近況を聞いてみると、
私が心配していたような、落ち込んで臥せっている状態などではなく、
持っている資格の更新時期で、昼間は仕事をしながら
夜は日付をまたいで勉強しているとのこと。
そういえば昔から、仕事、勉強、家事と常に活発に動き回り、
あまりゴロゴロしている母の姿をみたことがありません。
定年退職後は、ひとまず庭に花を植えたりしていたようですが、
気が付いたらまた働き始めていました。
仕事を頑張って、お金を稼いでは推しに課金していた母は、
今、何を思っているのか。
あれからもうすぐひと月が経とうとしていますが、
ずっとLINEの返信がないままなので近々電話してみようかな。
でも、私レベルからの着信は放置されるかもしれないから、
息子に「チャンピオン」か「冬の稲妻」の歌を練習させて、動画を送ってみようか。
「群青」もいいかも。
いや、ここは「サライ」にしようかな。