八日目の蝉
ある日の夕方、洗濯物を取り込もうとベランダに出ると、1匹の蝉が息絶えていました。
家の近くは緑が多く、今年は蝉の鳴き声も凄まじかったのですが、
そろそろ夏も終わりだなぁと物思いにふけり、一生懸命生きた蝉も、
見知らぬ家のベランダで最期を迎えるのは心残りだろうと思い、
次の日、近くの公園の木の下にそっと置いてきました。
数日後、またベランダに1匹の蝉の亡骸が。
仲間が先に旅立った友を追ってきたのかもしれない、
同じ所に供養してくれと言っているのだと思い、また同じ公園へ行き、同じ木の下に置いてきました。
数日後、、、3匹目です。
え?また?という気持ちが湧いてくるのを抑えて、その日の愛犬の散歩に蝉も連れていき、
また例の木の下に置きました。
「3匹仲良く成仏しろよ」と思いながら、公園を後にしました。
そして数日後。
またおるんかーい!
もう知らん。うちは蝉の葬儀屋じゃありません。
蝉界で「死ぬ間際にあそこのベランダに行ったら、人間のお姉さんが供養してくれるで」
みたいな噂が広まっているとしか考えられません。
こんなに立て続けに来られると、蝉に操られてるのでは、とさえ感じてきます。
人間のお姉さんも、そこまで暇じゃないねん。
もう勘弁してというメッセージも込めて、
最後の蝉は、家の前の道路に置いたまま、供養しませんでした。
そして、いつの間にか、その亡骸もなくなっていました。
そこから今日まで、うちのベランダに蝉が来ることはありません。
ただ蝉の季節が終わっただけなのか、
もしや、本当に最後の一匹が見せしめ的な感じになって寄り付かなくなったのか。
真相は藪の中。
気になって気になって、一連の話を、
蝉を擬人化して壮大なストーリー仕立てで友人に話したところ、
表情一つ変えずに、「暇やな」と言われました。
確かに。