不適切にもほどがある!~山本先生編~
遠い遠い昔。
私が、小学生の3年生になった春。
平和だった昭和の春。
大人の皆さんは、あちらこちらで平気で煙草を吸っていた、そんな時代でした。
小学校の1年生・2年生、所謂低学年が終了し、中学年(3・4年生)のスタートです。
初めてのクラス替えも終わり、始業式も終わり、多分(あまり覚えていませんが)皆が少しウキウキしながら3年生生活がスタートしました。
担任の先生は、ベテランっぽい男の先生、山本先生です。
1・2年生の時は女の先生だったので、男の先生は初めてだな、少し怖そうな顔をしてるな、
的な感じだったのではないか、と思います(あまり覚えていませんが)。
そして、その3年生の初日に、「学級委員」を選ぶ選挙を行いました。
低学年の時には、学級委員制度はなかったので、初めての選挙です。
クラスの皆が、男子1名、女子1名の学級委員を推薦する選挙で、立候補制ではなく、誰がふさわしいかを投票用紙に書いていきます。
そして、それを先生が開票し、黒板に、名前の挙がった児童の名前を書いていき、「正」の字で投票結果を書いていきます。
結果、私が、男子代表の学級委員に選ばれました。
それまでの私は・・・
1年生や2年生の時の通知表の先生からのコメント欄に
「おとなしくて、いつもニコニコしていて、誰にでもやさしくしています」と書かれているような児童だったようです。
そうです。私は、「誰にでもやさしく」するような、おとなしい性格だったのです!
その頃は。
その頃までは。
投票結果が出ました。
「誰にでもやさしくする」私が選ばれました。
私の感想は・・・良く覚えていません。
多分ですが、嬉しかったとか、イヤだったとか、そんな思いはあまりなく
「そうなんだ~」的な、事実を素直に受け入れる感じだったのではないかと。
でも、その時の山本先生の反応は、何故か良く覚えています。
開票が終わり、先生が「学級委員は〇〇と〇〇に決まりました」と言いながら、
首をひねり、
「そうかなぁ~、これでいいのかなぁ~」
「男子は〇〇の方がいいと思うけどなぁ~」
と、不満そうな顔で、独り言なのか、皆に聞こえるように言っているのかわかりませんが、何度も首をひねっていました。
多分、山本先生の中で、新しく3年〇組の担任をするにあたり、学級委員は〇〇と〇〇、と決めていたのだと思います。選挙をしてもそうなるものだと思い込んでいたのでしょう。
ところが。
先生の思いとは別の児童が選ばれてしまった。
しかも、そいつは、おとなしそうなやつじゃないか、
俺のイメージするクラス運営とは違ってくるぞ、的な思いが巡り、
独り言のつもりだったのかも知れませんが、ついつい声に出してしまったのでしょう。
しかし。
山本先生は、小学3年生になったばかりの少年の心をなめていました。
何故なら、その先生の、表に出してしまった心の声を当事者がしっかりと聞いていたのですから。今思えば、山本先生の中では、3年生になったばかりのガキどもには、何を言っても大丈夫だろうという驕りがあったのではないかと思います。
では、その、山本先生の反応に私はどう思ったのか?
山本先生の表情や言葉は良く覚えているのですが、その時の自分の感情は良く覚えていません。
多分ですが、ショックを受けた、とか、落ち込んだ、とかはないと思います。
なにせ、おとなしくてやさしい子供だったので(笑)。
ただ、先生という存在が、少年たちの心を打ち砕いてしまうかもしれない表情や発言をしてしまう、という事を目の当たりにして、ものすごく驚いたのだろうなぁとは思います。それは、自分が当事者だったから、という事ではなく、他の誰かの事を言っていたとしても、多分同じようにビックリしたのだろうと思います。
それまで、学校の先生と言えば、「絶対的な存在」であり「決して間違ったことは言わない」と単純に信じていた、少年だった私の心に、「先生といえども、絶対ではないのだ」との思いを植え付けてくれた、最初の出来事だったのではないかと思います。
そして、未だにこの出来事を覚えているという事は、この時の先生の反応が、その後の私の人格形成に多少なりとも(もしくは大きく)関わっていると言っても過言ではありません。
その後の私はというと。
この件がきっかけになったのかどうかはわかりませんが、徐々に変わっていってしまいました。少なくとも、「おとなしくて、誰にでもやさしい子」ではなくなっていってしまいました(泣)。
そして、大人になっていくにつれ、「権力者」とか「先生」とか「上司」と言われるような立場の人に対するリスペクトの気持ちが、他の人よりだいぶ薄いのだろうという自覚をするようになっていきました。
そうなんです。
そういった立場の方々からみると、私は、徐々に「くそ生意気」な奴になっていってしまいました。
今まで、私に関わったせいで嫌な思いをさせてしまった方々、ごめんなさい。
すべては、きっと、山本先生のせいなんです。